5Gの特性からみたリスク―その論点の整理

まだはっきりしない要素が多い

 5Gによって生じる電磁波に固有のリスクとは何でしょうか。

 それを論じる前に、現時点では、実証実験段階もしくはそれ以前のものが多く、導入される技術(機器やシステム)とその設置の方法などについて、具体的なデータがまだ揃っていないものが多くあることを断っておかねばなりません(【想定されている5Gの利用法】参照)。したがって、電波が放射される際の諸元(出力、詳細な周波数、指向性、地上高など)や設置数や設置密度なども知りえないものがほとんどで、そのために、5Gが導入された際の曝露状況もはっきりと推測できないものが多いのです。
 こうしたデータは、今後継続的に調査することではじめて得られるものですので、皆さんのご協力のもと、私たちもそうした調査を進めてまいりたいと思います。

 5Gの電磁波で従来の4Gまでと異なる点は(【5Gとは何か】参照)、

A)従来よりも高い周波数帯である、3.7GHz、4.5GHz帯、28GHz帯をメインに利用することになる

B)3.7GHz帯および4.5GHz帯では最大100MHz、28GHz帯では400MHzの帯域幅というこれまでによりもずっと広い帯域を使うことになり、通信の情報量が飛躍的に大きくなる

C)基地局が約100mおきという非常な高密度に設置される可能性がある

D)ビームフォーミング、ビームスイーピング、ビームトラッキング、ハンドオーバー、マッシブ マイモといった、電波の新しい放射方式が用いられる

 ということになります。これらに応じて、以下のように電磁波リスクを想定することができるでしょう。

電波のエネルギーは皮膚の浅いところに集中

1) 電波をヒトが曝露した場合、その電波は体表面の皮膚の比較的浅いところまでしか浸透しないので、人体に吸収される電波のエネルギーは、その狭い範囲に集中して吸収されることになると考えらられていること

 これは、A)で述べたことが関係します。高い周波数の電波が持つ特性の一つに、電波の直進性が大きくなる(空間中を広がっていって、反射したり、回り込んだりする割合が低くなる)ことが挙げられます。それがために、障害物の影響を受けやすいことになり、これを障害物の側から言うと、電波がスポット的にあたることを意味します。ですので、ビームフォーミングのような、基地局から出た電波が端末を“狙い撃つ”感じで届く、ということが可能になるのです。このスポット的な曝露は、むろん電波の周波数とそのエネルギー強度に応じて、皮膚から人体内部への浸透がどの程度まで(広がり、深さ、与えるエネルギー量)起こるものなのか、ということは一概には言えないのですが、これまでの種々の研究によって、5Gで使用が想定される電波を曝露した場合の影響評価に関しては、
情報通信審議会 情報通信技術分科会 電波利用環境委員会 電波防護指針の在り方に関する検討作業班(第10回)配付資料 6GHz以上で人体から10cm以内に近接した場合の電波防護指針の見直しについて(案)
といった資料で見る限り、皮膚の角質層・表皮・真皮までの浸透に留まり、皮下組織には及ばないという前提で議論が組まれていることがみてとれます。そのこと自体の真偽は措くとしても、その浸透の範囲内において、加熱作用による温度上昇がどれくらいになるか、ということで「安全であるかどうか」の目安にしている点が読み取れます。当然のことながら、電波の浸透深さが小さくなると、体表面における「熱時定数」(一定の温度上昇に要する時間)は小さくなり、熱ですから血液の流れなどによって常時拡散してそのうちに平衡に達するにしても、照射された部分がある温度までは上がってしまう、ということが問題になるわけです。

従来とは異なる曝露パターン

2)5Gシステムで想定される、従来とは異なった曝露のパターンが生じるだろうこと

 これは主としてD)に関連して起こることですが、その詳細はまだわかりません。ただ、ビームフォーミングでピンポイント的に端末に向けて電波が照射されるとすると、その時もしもそのビームの直進を阻む位置に別の人がいたとすれば、一瞬にせよその別の人への曝露が生じるはずであり、そうしたことが、C)の事情もあって、かなり頻繁に生じるのではないか、と想像できます。このような意図せざる(本人は気づいていない)曝露の機会が5Gでは飛躍的に増えるのではないか、という懸念をここに記しておきたいと思います。

従来通り熱作用のみ規制

3)推進側の論理である、「熱作用への規制の部分改訂で乗り切れる」という安全性確保の考え方には問題があること

 これについては別項を設けて論じました。
【5G電波の規制】

皮膚は水で満たされたスポンジではない

4)皮膚での浅深度吸収の影響評価に疑問を呈する論文があること

 これは、日本の5Gにおいて用いられるミリ波帯の周波数では直接問題になることではない可能性もありますが、それより大きいサブテラヘルツ(THz)帯(数十GHzから数百GHz)で示された、興味深い論文での結論を紹介しておきます。1)で述べた皮膚の浅い部分でのエネルギー吸収について、これまでの影響評価では、皮膚をあたかも「水で満たされたスポンジ層」のようにみなして、いろいろな条件を設定しモデルに基づいての計算などが行われてきたわけですが、以下の論文は「皮膚はそんな単純なものではない」ということを端的に示した研究だと言えるかもしれません。

【論文】Yuri Feldman(ヘブライ大学応用物理)ほか
The human skin as a sub-THz receiver – Does 5G pose a danger to it or not?
Environmental Research Volume 163, May 2018

The Modeling of the Absorbance of Sub-THz Radiation by Human Skin
IEEE Trans. THz Sci.Tech. (Paris) 7(5), 521–528 (2017).

 この論文では、皮膚の表皮に存在する汗管の存在に注目し、それがサブTHz領域の電波が浸透して来る場合に、その構造上の特性から(汗ダクトの部分がヘリカル(螺旋)アンテナのようなコイル状の形をしていて、その直径、ピッチ、高さが、サブTHz領域の電波を効率よく受信するに大きさになっているので)サブTHz領域の電波への高い吸収率(SAR)を示すことを、モデル計算と照射実験による実測とを比較しながら明らかにています。吸収される電波によって加熱の度合いが大きくなれば、汗が妙な感じで多く出るようになり(「外気が熱くもないのに、汗だけがやたら出る」といった感じでしょうか)、その人に身体的・精神的ストレスをもたらすことは十分考えられることです。
 今後、皮膚の構造上特性をふまえて、血流を含めた温度調節はもとより、免疫を含めた防御システムとしての機能などが、高い周波数の電波の曝露によって、どう影響を受けるのか受けないのか、という研究に、大いに注目していかねばならないような気がします。

スモールセルによる曝露水準上昇

5)5Gスモールセル基地局からの送信電波の強さを計算してみると、かなり高い曝露水準になることが想定できること

 これについても別項で解説しました。
【5G電波とその強さ】

電磁波曝露量が相対的に増大

6)電磁波の曝露量が総体的に増大し、特に、過敏症の症状の悪化や過敏症患者の増加が懸念されること

 すでに5)でみたように、
①単一の放射源(基地局アンテナ、端末[移動局]アンテナ)で見た場合、これまでよりも一桁から二桁、曝露強度が増大するかもしれないこと
 またD)の状況が示すように、
②放射源の数の一桁から二桁、増大するかもしれないこと
 そうすると
③①と②にから、総合電力束密度(曝露することになる様々な周波数の電波での曝露強度を足し合わせた値)でみた場合、おそらく二桁から三桁の増加を見込まねばならないかもしれないこと
 が見えてきます。
 これは、総体的に電磁波曝露が大幅に増大するということであり、今現在、環境不耐症に悩まされている方々にとっては脅威となる環境の出現を意味します。また、今発症していない人にとっても、何ならの曝露をきっかけに過敏症を発症することになる、そんな機会が増えることを意味するのではないでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました